流離の標
 
PBW「無限のファンタジア」「蒼空のフロンティア」「エンドブレイカー!」のPC&背後ブログ
 



1話完結
~説明~
長編以外の小説

【無限】薔薇の愛の引き換えに―der letzte Wunsch―

見渡す限り、無限の赤。
赤い薔薇だけがどこまでも埋め尽くす花園。
艶やかに咲き誇るその姿は美しく、誇らしく







どこか、寂しげで。





*************


花園を見渡す事のできる窓際のテーブルに、
1枚の羊皮紙が遺されていた。
羊皮紙の周りには沢山の品が所狭しと並べられている。
テーブルの上には護符や翠石のオブジェ、指輪やグラスなど。
傍の椅子には赤いコートが掛けられ、
壁には豪奢な装飾のサーベルが二振り立て掛けられている。

羊皮紙の最後には、1枚の紫の花弁と…
「ビジー・アルフレア」のサイン。
中身は、こう記されていた。


【リコス、プラムちゃん、元気かな。
 ルーはまたお昼寝でもしてるのかな?
 ここに来るのは3人くらいだと思うけど…
 一応、他の皆にも見つかった時のために。

 皆、元気かな。 元気だと、いいな。

 冒険者になって、いろんな事があって。いろんな出会いがあって。
 すっごく、楽しかったよ。
 どの思い出も、かけがえのない僕の宝物だよ。
 皆に出会わなければ、僕は…変わる事ができなかったから。

 でもね、何だか楽しすぎちゃったみたい。
 僕はとってもわがままで。それだけは、変わらなくて。
 一番無くしたくなかったもの…無くしちゃった。
 そのために、いろんなものを捨ててきたのにね。
 結局僕は、覚悟が足りなかったんだ。
 彼女を幸せにしたくて、他の皆の幸せを壊してきたのに。
 …僕じゃ、だめだったみたい。

 つまるところ、ね。
 僕は誰も幸せにできなかったんだ。
 守るべき花の無い棘は、無意味に触れるものを傷つけるだけ。
 傷つけるだけ傷つけて、…枯れていくのを待つだけ。
 今の僕にそっくりだ。
 帰る場所なんて、どこにも…無くなってしまった。

 僕が記憶を無くす前、崖から飛び降りた時…
 リコスに助けられずに死んでいれば。
 …少なくとも3つの悲しみは生まれなかったのかもね。
 リコスと、ルーと、……彼女。
 リコスを責めてる訳じゃないんだよ、ただ…ごめんね。
 「ビショップ」が出会ってしまって。

 誰も、悪くないよ。誰も責めない。
 全ての罪は僕にある。…そしてこの結果が報いだ。
 これからする事も、もう僕とは無関係な彼女には…
 どうでもいいことだと思う。
 …それで、いいんだ。
 彼女は僕の事なんて気にもかけず、
 役目の無くなった騎士は人知れず消える。

 …彼女が、彼女なりに幸せでいてくれるなら。
 
 できれば、どこかで誰かがほんの少しだけ、
 僕の事を覚えていてくれたら。

 
 それが、これを読んでくれた誰かへの、
 ビショップ・アメジストとして…そしてビジー・アルフレアとしての、
 最後の願い。


 弱虫って怒られるかな?ごめんね。
 でもこれだけは信じてほしいんだ。
 …いつだって、…これからもずっと、…君を愛してる。 



 次に、生まれるなら……花になりたいな。
 誰も傷つけず、悲しませず、
 誰かを癒やす香りと花を咲かせる、
 綺麗な薔薇に――。】


**********************


空は、あの日とは違う晴天。
あの日と同じ崖の下で
真紅の公爵服に身を包んだ彼を見つけた。
彼の紫薔薇は、赤く塗れていて。

どれだけ叫んでも、もうあの日のように目を覚ます事は無かった。


**********************


どこまでも、どこまでも埋め尽くしましょう。
あなたが薔薇になりたいと言うのなら。
この花園をどこまでも――。



2月15日(月)19:00 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理

Requiem

この声は 届かずに
遙か彼方 夢の跡形
最果ての この地で 一人
歌を 奏でる



彼らの凄絶な最期は、瞬く間に同盟全土の知る所となった。


わかっては、いた。
希望など、どこをどう探してみても見当たらない。
加えて、武勇の為ならば良くも悪くも死を恐れないあの男の性格。
……導き出される結論は、余りに残酷で。

それでも…わずか1年ほど前。
最善を尽くそうと笑いあった友だったから。
あの頃は確か、歳は20だと言っていたか。

「…何年、生きても…堪えるね……」

もはや声を伝える事も、弔う事さえできない友に。
せめてその魂が向かう先に響くように、琴線を弾く。


響け 声は遙かに
届け 波は彼方に

歌声は蒼穹に
嘆きの声は海原に

 ― 消 え て ―

この声は 届かずに
遙か彼方 夢の跡形
最果てのこの地で 一人

歌を 奏でる――




迦陵頻伽(カラヴィンカ)の名に相応しく。
どうか、今は静かに安らかに…永の眠りに導いてくれ。



7月27日(月)18:32 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理

Der rondo des Blutenblattes

むせかえる腐臭の中
私は地獄の回廊を行く。
哀れな亡者共を針鼠に、生き残った目障りな蟲は虚無の手で捻じ伏せて、
最下層の奥の部屋まで来た。

荘厳な造りにも拘らず、禍々しさしか感じられない。
壁に埋められた髑髏の笑い声が、いつまでも脳裏に残る。

(……不愉快だわ。)

冒険者になって間も無い私の力ではきっと力不足だったよう。
深手を負いながら尚も立ち上がり、
私達に襲いかかる四つん這いの亡者。

「だめですっ、仲間を…傷つけないでください!」

同じ後衛にいた、紅白の椿を咲かせた娘が
護りの天使を飛ばす。

……そして。

「――しつこいよ。」

あの頃と変わらない声で彼が淡々と言い放つと同時に、
亡者は塵に返っていた。

「わ、やりましたねビジーさんーv」
「あーよかったー。ちょっと長引いちゃったね、大丈夫ユキちゃん?」
「はい、何とも無いですー。」

……ユ、キ。
それが、彼女の名。
親しげに笑いかけ、頭を撫でて――

「…行くわよ、ビジー。」


――            。――

「あ、はーい。先行くと危ないよリコスー。」



……馬鹿馬鹿しい。くだらない。
    くだらないのは、どっち?

…私の     は、花園で眠りに着いたのよ。
    死んではいないの。

  彼 は   もう  。


***********

「!? リコリスさん、大丈夫ですかっ!?」

迂闊だった。私とした事が。
忌わしい姿のドラグナー…ドラゴニュートクイーン。
それが放った炎が、私の体からなかなか消えない。
……これが、魔炎。
何とか身につけた回復アビリティを唱えても、間に合わない。
…これしきの、事で…私が…――

その時、ふ、と。
炎に巻かれていた私の体が軽くなる。

「…よかった、炎、取れましたねっ」

安堵した表情で笑いかけるのは……あの椿の娘。
確かに、炎は完全に消えた。この娘が、私にかけたアビリティで。

「……ユ、キ。」
「はい?」

「……。」


彼女の顔を見る度、くだらない感情が蘇る。
満たされる事のない、  の墓場に埋めてきたはずの、
……愚かな感情。
そんな私の気など、一切知らないのでしょうね、この娘は。

「目障りよ。……塵に還りなさい。」

娘には目を向けず。 今はただこの偽りの女王が邪魔。
杖から発した虚無の手が、眼前に立ちはだかっていた醜い女を貫いた――。



花園の花は 今日もまた1輪増える。
二度と叶うはずの無い 愚かな私の   の墓場。
尽きせぬ  は果てが見えずに。
どこまでも、   ――どこまでも。



8月26日(火)21:48 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理

薔薇の愛の引き換えに -Auf Wiedersehen-

――泣かないでリコス。お願い、どうか。

雨の降りしきる崖の上。
向けられる彼の笑顔はあまりに優しすぎた。

――君といられた時間は、幸せだったよ。

優しい笑顔と、優しい声に。
自分の頬を伝うのは雨なのか、違うのか。

――ねえ、最後だからどうか……笑って、愛しい人。

泣いてなどいない。
むしろ泣きそうな顔をしているのは、彼ではないか。


――……ごめんね……。


  世界で一番、君を愛してた。


終わりの時を告げる残酷な言葉と共に
彼は崖から姿を消した。



  次にもし、目を開けたら――一番に、呼ぶよ。
  世界で一番愛しい、愛しい、君の名を。



6月22日(日)19:53 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理

嵐の前の

「あーぁ。ルーは今日も寝ちゃってたしー。」

自室で黒猫のルーを抱きあげながら、
相談に付き合ってくれなかった同じ名の親友への恨み事を零してみる。
相手は意味をわかっているのかいないのか、少し目付きの悪いその眼で
こちらをただ見つめるだけだった。

「…ねールー。

僕、よくわかんないんだよ。
あの子がね、僕といても平気って。だいじょぶって言ってくれるのうれしいんだよ。
気持ちはうれしいんだ。」

…でもなんで?
なんで僕“なら”?
なんで、僕“だから”?

「……何か答えてよルー……」

抱きあげた手の指でぐいぐいと腕の付け根を押してみても、
「何するんだ」とでも言いたげに「に゛ゃー」と嫌な声をあげるだけ。

「…ルーは知ってるからいいんだよ。
 ……知らないもの、あの子は。」

あの子は■■■は見たこと無い。見せた事も無い。
頑張ってるんだもの。負けたくないもん僕だって。
…そんなの、見せたくないもん。

「なんで、僕なのかなー…」

ごろんと床に寝転がって、遠い天井を見る。
胸に乗せた黒猫は、じっとそんな主の顔を見つめていた。



4月3日(木)22:31 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理

Dornen von der Rose

「行くのでしょう。」
「――うん。」

顔を見せない主は、ただそれだけ言った。
薔薇の剣士はただ、それだけ答えた。

「跪きなさい。以後、私の顔を見る事を許さないわ。」
「――うん。」

どこか震えた声で、彼女は言い放つ。
薔薇の剣士はただ、それだけ答えて跪いた。

「両手を、出しなさい。」
「――うん。」

その声の震えが、怒りによるものなのか、悲しみの涙によるものなのか。
彼には知る術は無かった。
故に、薔薇の剣士はただ、それだけ答えて両手を差し出した。

その腕に渡されたのは、ずしりと重い、二刀のサーベル。

「…何処へ行こうと、お前は私の薔薇よ。
 私の薔薇が、下賤な棘を纏う事は許さない。」

薔薇の棘、と名付けられたその剣を
薔薇の剣士は拒むことは無かった。


「――リコス。」

最後に一度だけ、名を呼んで。


「行ってくるね。」



3月26日(水)23:24 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理

降って湧いた駄文←

最期に、この目に映るのが
君だったら…いいなって。

いつか 世界が、真っ白になって、
何も、見えなくなる…最期の、最期。

君のね、できたら…笑った顔。
見ていたいよ。



3月22日(土)23:15 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理

花は無く

「随分、待たせてしまったな。」

郊外の、街とその周りの景色まで一望できる丘。
そこにあるのは小さな、小さな石碑だった。
墓にしてはあまりに目立たず、
ただの目印にしては余りに眺めが良い、
そんな場所に立っている石だ。

「雪が降る前で良かった。」

まるで大切な人の髪を撫でるかのように、
そっと石を撫でる。
長い間風に晒されてきた石はとても冷たく、
自分の手の体温が、触れた所から一気に奪われていくのがわかる。

――前に触れた時は、まだ・・・・・

「すまなかったな。機嫌、直してくれよ。」

苦笑して、もう一度撫でる。
きっとご機嫌斜めなあの人を宥めるように。
あの人の綺麗な髪の感覚を想い出して、愛おしむように。

「この時期だから、花も無くて。今はこれで、勘弁してくれるかい。」

身に纏っていたストールを、石に巻きつける。

「もうじき、飽きるほどたくさんの花が見えるから、ここは。」

あの人に似合いの、真っ白の雪。
優しく、静かに、さらさらと。
街も畑も等しく、白で埋め尽くす。
夜になれば見下ろす街の風景に灯が灯り、違った様相を見せる。
この季節は色とりどりの装飾もなされているから、
きっと素晴らしい夜景になるだろう。
夜が明け朝陽が昇れば、一面の銀世界を陽の光が照らしだす。
それもまた、幻想的な風景に違いない。

そこに佇むこの人はきっと・・・美しいに違いない。
きっと、また一目惚れをしてしまう程に。

「しばらくは退屈しないだろうさ。ちょっと寒いけどな。」

あの人が寒い思いをしないように、少しきつめにストールを巻きつける。

「・・・・どうしても、伝えたくて。他でもないお前に。」


――今でも、愛してるよ。お前の事を、心から。

いつか生まれ変わったら、今度は絶対に離さない。
最期のその時までずっと、一緒にいると・・・誓うよ。

「愛してるからこそ・・・今まで来れなかった・・・」

この墓石を見る事は、自分の惨めな、情けない姿を目の当たりにする事だから。
過去の自分に、押し潰されてしまいそうで。
意識して、避けてきた。お前には悪いとわかっていても。

でも。

「それでも良い、と。言ってくれる子がいたんだ。」

こんな私なのに。こんな、救いようのない男なのに。
・・・・そんな私を好きだと、言ってくれた。
傍にいてやらないと壊れてしまいそうな不安定な子なのに、
・・・・逆にいつも、私を救ってくれる。

「甘えてはいけない、と。私は一人なんだと。
 愛するのはお前だけなんだと、ずっと言い聞かせて来たよ。」

でも、
ただの保護欲では収まらないこの想いは。
・・・・・ありがとう、をいくら重ねても足らないこの感謝は、
どうすれば。

「お前を、『過去の人』にはしたくない。・・・・・・・でも、ね。」

お前なら、何て言うかな、って。
ずっと、ずっと考えて。

考えて。


「・・・・私は心のままに生きるよ。
 だから、お前も。
 ――どうか自由であってくれ。」


この世で最初に愛した 美しい人――。





12月22日(土)21:48 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理

戦いの後で

ドラゴンウォリアーとしての力を初めて使った、
初めてのドラゴン界での戦い。
全てが初めてで、あまりの勝手の違いに
戸惑いを覚えなかったと言えば嘘になる。
間近に迫るドラゴンや、これまでにない圧迫感。
その場にいるだけで恐怖すら覚えるそれは余りにも鮮烈で、
戦いを終えた今でもはっきりと思い出せる。

・・・・ただ、どれほど恐ろしくても。
どれほど圧倒的でも。

「死ぬわけにはいかないんだ、絶対に。」

自分で言ったその言葉だけは、何としてでも守らねばならなかった。

**********************************

ドラゴン界から脱出したチーム一同。
幸いにも逃げ遅れた者はいなかったらしく、
どうにか全員生きて帰る事が出来た。
「一時はどうなるかと思ったけど・・・」
「怪我は無いかい?」
「うん、大丈夫。」
ジェイドの問いかけにふわりと微笑んで返すハニエル。
彼はそれを見てまずは一息ついた。
ひとまず、一番気にかかっていた人は
無事であったことがわかったから。
(あとは、あいつだけど・・・・)
自分は武人だからと、進んで前衛を引き受けたらしいクアン。
ドラゴン界で行動していた時も、彼が何度かうめき声をあげていたのを
ジェイドは聞いていた。
凱歌が届きやすいようなるべく傍を離れないではいたが、
果たして実際どの程度の怪我を負っていたのか―――

「・・・・!! クアン!!!」

肩を押さえて座り込む腐れ縁の姿が目に入るなり、
ジェイドはその方向へ迷わず足を進め、そして。

「・・・ちょ、・・・ジェイ、ド・・・?」

傍にいたハニエルが思わず反応しそびれるくらい、意外な行動に出た。
あろうことか、重傷を負っているはずのクアンを
力の限り殴り飛ばしていたのである。

「ジェイド!!クアン殿重傷なんだから――」
「この大馬鹿野郎が!!!」

ハニエルの言葉を無視して、クアンの胸倉を容赦なくつかむジェイド。
重傷者の扱いとしてはこの上なくひどいものであった。

「無茶はしないって言ったのはどこの誰だよ、え?
 あんたが私に回復は頼んだって言うから、私はちゃんと回復してやったよ、
 けど結果がこれかい!! 話にならないよ!!!」

あまりにひどい言い様にハニエルも流石にジェイドを抑えようとしたが、
それはクアン本人によって止められた。

「・・・・お前の言う通りじゃよ、ジェイド。
 今回は、お前に世話になった。じゃがわしはこの様。
 ・・・・その事に関しては、弁解をするつもりは無いわい。事実じゃからの。」

じゃが・・・と、一息置きながら、
クアンはやんわりと、胸倉をつかむジェイドの手を外した。

「任されたからには、応えたい。それはわしとて同じじゃ。
 それに一旅団の長たる者、他の者に示しのつかぬ真似はできまい?」

痛みに顔を歪ませながら、それでも穏やかに笑ってクアンはそう言った。

「・・・・見栄っ張りも大概にしろよじーさん・・・」
「お前、口の悪さが普段の比で無いぞ?」
「・・・・・・・・」

クアンの言葉には答えず、ジェイドは彼の傷に手をかざすと
最後の凱歌を歌った。
完治とまではいかなかったが、少しは傷も軽くなったようである。

「ジェイド・・・」
「もうアビ使い切っちまったからね。あとは自分でどうにかしとくれよ。」

素気なく言い捨てて背を向けて去ろうとする彼に、クアンは声をかけた。
「すまなんだな。・・・じゃが、有難い。」
「・・・・・。」
クアンに振り返ったジェイドは、しばし複雑な顔で古い友を見つめていたが、
やがて彼から目をそらすと、ハニエルをを伴って何処かへ去った。


互いが、互いに、そういう人間であると知っているから。
言葉の裏に隠された意味が、わかるから。
やはり彼らは"友”なのである――。



11月16日(金)19:35 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理

残響は夕風に消えて


この声は届かずに
遙か彼方 夢の跡形
最果てのこの地で独り
歌い続ける――


街と、その先の地平線まで一望できる小高い丘で一人、
夕日を受けながら夕風に調べを乗せる。

今でも時々、この歌を歌いたくなるんだ。
誰にも明かせずに独り、お前が歌い続けていたこの歌を。

物寂しい歌詞、物悲しい曲であるはずなのに
お前はいつも、この歌を明るい曲調に変えた曲に合わせて
誰もを虜にする笑顔で踊っていたね。何も言わずに。
その歌詞の存在を教えてくれて、
私の前でその声で歌ってくれた時の事を
まだ昨日の事のように覚えているよ。
・・・・嬉しかった、けど切なかった。

私はね、賑やかな場所は好きだよ。
街を歩くのも好きだし、酒場で皆と盛り上がるのも好きだ。

・・・・・でも、ふいに。

この歌が恋しくなる。
どうしようもなく愛しくなる。

お前の歌声を、また聞きたいと・・・・思ってしまうんだ。

叶わないのはわかっている。だからせめて。
お前の形を、この歌に探すんだ。
それくらいは、許してくれ。


――響け 声は遙かに
――届け 波は彼方に

  歌声は蒼穹に 
  嘆きの声は海原に・・・・

この声は 届かずに
遙か彼方 夢の跡形
最果てのこの地で独り
歌を 奏でる――――・・・・・




10月9日(火)21:20 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理


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