流離の標
 
PBW「無限のファンタジア」「蒼空のフロンティア」「エンドブレイカー!」のPC&背後ブログ
 



1話完結
~説明~
その名のとおり←

【EB】重い想いを思い

「ソニアも残りますっ!」
「言う事を聞きなさい、ソニア。」
「ソニアは兄上のためにエンドブレイカーになったのです、
 兄上のいらっしゃらない旅に意味はありませんっ」
「困ったねえ…」

棘が消え、平和になったアクスヘイムでのある日の事。
普段は兄に反抗する事の無い小さな妹が珍しく頑として譲らなかった。

「父上が城塞騎士団長であることは知っているね?」
「ぞんじてます。」
「今までは陰ながら父上の活動の一助になればと、
 このアクスヘイムの中で私もエンドブレイカーとして活動していたよ。
 けれどこの都市を出てしまったらそう簡単には戻って来れない。
 だから私は残る。」
「ならソニアも残りますっ!!」

いくらアクアレーズが丁寧に説明してもソニアは譲らない。

アクスヘイムに平和が訪れた事と、
近隣の都市国家エルフヘイムでの異変を聞きつけた事により
アクスヘイムで行動していたエンドブレイカーの多くはその活動の場所を
次なる都市国家エルフヘイムへと移動する事になった。
都市国家間にはエンドブレイカーにとっても危険が多く、そう頻繁には行き来できない。

その状況の中、アクアレーズは敢えてエンドブレイカーとしての活動を続けるよりも
アクスヘイムへ残留する事を選択したのである。
彼は城塞騎士団の団長である父をいたく尊敬しており、
かねてよりその跡を継ぐことこそを本望としていた。

一方ソニアは、元々イノセントのエンドブレイカーであった兄に対して
彼から受けた傷によってエンドブレイカーに目覚めたスカードの出自である。
ソニアにとっての「エンドブレイカー」とはアクアレーズ無くして有り得ないのだ。

「…聞き分けのない子は兄は嫌いだよ、ソニア。」
「…っ」

嫌い、という言葉を聞いて瞳に涙をいっぱい溜めたソニアが僅かに怯む。
アクアレーズはそんな彼女に視線を合わせるべく自ら屈んだ。

「意味も無く私がお前1人にエンドブレイカーを続けさせるつもりだと思っているのかな?」
「…でも、兄上が、いなければっ」
「ソニアは、私と違って自由に動く事ができるから。
 私にできないことを代わりにして欲しいと言っているんだよ。
 その目と耳と、肌でたくさんの事を感じておいで。」

完璧なまでに綺麗で優しい微笑みを向けるアクアレーズ。
しかし、それでもソニアの顔は晴れなかった。

「……でも……」
「そしてその全てを兄に教えてくれ。頼りにしているよ、可愛いソニア。」
「………兄上のお役にたてる、なら…………、………」

やっと紡がれた承諾の言葉。
しかしそれはアクアレーズの「頼りにしているよ」の言葉に対する言わば条件反射のようなもの。
本心では納得していないのだろうと見たアクアレーズは何を思ったか
自分が愛用しているソードハープを差し出した。

「言う事を聞かないソニアには罰を与えないといけないね。」
「っ!」

それは、21歳の青年であるアクアレーズが両手でようやく扱える大きさのソードハープ。
特に石造りのハープ部分がずっしりと重く、大きさは彼の身の丈程もある。
いくら普段からハルバードなど大型の武器を主に扱っているとは言え
まだ12歳であるソニアにはそう易々と扱えるものでは無かった。

「お前にはこれは重いだろうね。だから持って行くといい。私の代わりに…」
「はわっ、ぁう、おもた、あにうえ…っ」

それを承知の上で、敢えて彼はソニアにソードハープを託したのである。
素直に言う事を聞かなかった罰であるとして。
ふらつきながら何とか大きなソードハープを抱えようとするソニアを満足そうに、
しかしどこか穏やかな笑顔でアクアレーズは見つめていた。

私なしでは生きていけないという妹に
寂しさなど感じる暇も無い程の重すぎる枷を。


それは倒錯した愛情なのかもしれないとも思いつつ。



8月26日(木)16:42 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理


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