【無限】薔薇の愛の引き換えに―der letzte Wunsch― |
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| 見渡す限り、無限の赤。 赤い薔薇だけがどこまでも埋め尽くす花園。 艶やかに咲き誇るその姿は美しく、誇らしく
どこか、寂しげで。
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花園を見渡す事のできる窓際のテーブルに、 1枚の羊皮紙が遺されていた。 羊皮紙の周りには沢山の品が所狭しと並べられている。 テーブルの上には護符や翠石のオブジェ、指輪やグラスなど。 傍の椅子には赤いコートが掛けられ、 壁には豪奢な装飾のサーベルが二振り立て掛けられている。
羊皮紙の最後には、1枚の紫の花弁と… 「ビジー・アルフレア」のサイン。 中身は、こう記されていた。
【リコス、プラムちゃん、元気かな。 ルーはまたお昼寝でもしてるのかな? ここに来るのは3人くらいだと思うけど… 一応、他の皆にも見つかった時のために。
皆、元気かな。 元気だと、いいな。
冒険者になって、いろんな事があって。いろんな出会いがあって。 すっごく、楽しかったよ。 どの思い出も、かけがえのない僕の宝物だよ。 皆に出会わなければ、僕は…変わる事ができなかったから。
でもね、何だか楽しすぎちゃったみたい。 僕はとってもわがままで。それだけは、変わらなくて。 一番無くしたくなかったもの…無くしちゃった。 そのために、いろんなものを捨ててきたのにね。 結局僕は、覚悟が足りなかったんだ。 彼女を幸せにしたくて、他の皆の幸せを壊してきたのに。 …僕じゃ、だめだったみたい。
つまるところ、ね。 僕は誰も幸せにできなかったんだ。 守るべき花の無い棘は、無意味に触れるものを傷つけるだけ。 傷つけるだけ傷つけて、…枯れていくのを待つだけ。 今の僕にそっくりだ。 帰る場所なんて、どこにも…無くなってしまった。
僕が記憶を無くす前、崖から飛び降りた時… リコスに助けられずに死んでいれば。 …少なくとも3つの悲しみは生まれなかったのかもね。 リコスと、ルーと、……彼女。 リコスを責めてる訳じゃないんだよ、ただ…ごめんね。 「ビショップ」が出会ってしまって。
誰も、悪くないよ。誰も責めない。 全ての罪は僕にある。…そしてこの結果が報いだ。 これからする事も、もう僕とは無関係な彼女には… どうでもいいことだと思う。 …それで、いいんだ。 彼女は僕の事なんて気にもかけず、 役目の無くなった騎士は人知れず消える。
…彼女が、彼女なりに幸せでいてくれるなら。 できれば、どこかで誰かがほんの少しだけ、 僕の事を覚えていてくれたら。
それが、これを読んでくれた誰かへの、 ビショップ・アメジストとして…そしてビジー・アルフレアとしての、 最後の願い。
弱虫って怒られるかな?ごめんね。 でもこれだけは信じてほしいんだ。 …いつだって、…これからもずっと、…君を愛してる。
次に、生まれるなら……花になりたいな。 誰も傷つけず、悲しませず、 誰かを癒やす香りと花を咲かせる、 綺麗な薔薇に――。】
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空は、あの日とは違う晴天。 あの日と同じ崖の下で 真紅の公爵服に身を包んだ彼を見つけた。 彼の紫薔薇は、赤く塗れていて。
どれだけ叫んでも、もうあの日のように目を覚ます事は無かった。
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どこまでも、どこまでも埋め尽くしましょう。 あなたが薔薇になりたいと言うのなら。 この花園をどこまでも――。
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2月15日(月)19:00 | トラックバック(0) | コメント(0) | 1話完結 | 管理
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