流離の標
 
PBW「無限のファンタジア」「蒼空のフロンティア」「エンドブレイカー!」のPC&背後ブログ
 



単発
~説明~
1話完結

【蒼ふろ】響聲

それは、英霊と契約したいという李梅琳に従い、
契約の泉まで足を進めた時だった。

「!? 秦王様!?!?」
「!?」

普段は目が見えない為に自分から何かを見つける事のない彼が、
突然後方から声を荒げた。

「秦王…?」
「秦王様、私がわかりますか、秦王様!!」

契約の泉から現れた野良英霊の元へ駆け寄ろうとする彼を
黒龍は何とか押さえこみながら英霊の方を見やったものの、
どれも鎧をしっかりと着込んでいて違いがわからない。

「落ち着け、あれは主に見捨てられた野良英霊だ。
 何を取り乱すことがある。」
「秦王様、お答えください……、なぜこのような所に…っ」

どれほど言い聞かせても、彼は見えないはずの目を悔しそうに歪ませて
1人の英霊に言葉を投げかけるばかり。

【朕はそなたを知らぬ。】

楽師が必死に訴えかけていた英霊はそう答えた。

「あなたが存ぜずとも、私は覚えております!!
…秦王様、あなたはこのような所におられる方では…っ」
【朕は存ぜぬ。
この場を荒らす者であるならば、同じ英霊であろうと容赦はせぬ。】

有無を言わせず楽師へと振り下ろされた槍を、
彼の脇から繰り出された別の槍が薙ぎ払った。

「…黒龍、くん……」
「…お前がこの英霊にどのような思い入れがあるのかは知らない。
 だが、どのような理由があろうとこれは捨て英霊に過ぎない。
 …それともお前は、私を差し置いてこの英霊に味方すると言うのか。」

向けられた、感情の無い目に楽師は我を取り戻す。

 ああ、そうだ。この目だ。
 感情の無い、孤独な目。
 
 僕が救いたかった、秦王様の目だ。

鎧を着込んだ目の前の英霊は、秦の始皇帝。
しかし彼は、楽師に出会う事の無い歴史を生きた英霊なのだろう。
名前が同じだけの、別人。

「…ごめんね、黒龍くん。   僕は、君の味方だよ。」
「……。」



「…燃えろっ、火術!!」



沸き起こる炎が、目の前の英霊を炎で包んだ。



2月1日(月)20:26 | トラックバック(0) | コメント(0) | 単発 | 管理

【蒼ふろ】只幸福 是幸福

「黒龍くん、眠れない?」

眠れないから無理やり目を閉じていたのに、目の前で声がする。
返事をするのも億劫なのでそのまま放っておいた。

「僕の目が見えないと思ってー…わかるんだからね。」

知ったことか。だったらどうした。



「…幸せ、って。やっぱり慣れない?」



いつもの面子が島村達の結婚式に参列するという事で
自分も参列を表明してはみたものの。
滲み出るほどの幸せな笑顔。空気。
そこにはただ幸せしかない。

…。


…慣れない。


そんな環境とは無縁に育ってきたから。慣れない。
幸せが何なのか、理解できない。


「ちゃんと、当日は僕を連れてってよ?
僕はこの通りほとんど見えないんだし。」

「……。」

うるさいので、奴に背を向ける。
わずかに聞こえた溜息に問うた。


「幸せとは、何だ。」

「……。」

「私には理解できない。」


しばらくの沈黙。
やがてくすりと微笑む声の後、穏やかな声が返ってきた。


「人はね、幸せじゃないと楽しくないんだよ。
幸せの形はひとつじゃないけど…
楽しくないと、生きていてもつまらないでしょ?

だから、生きるためには幸せが必要なんだ。

黒龍くんにも、あるでしょ?楽しい幸せな時間。」


…窓際で眠る葛葉の姿が視界に入って、視線を反らした。


「誰かの幸せをお祝いするとね、自分もとっても幸せになるの。
とっても楽しくて、一緒に笑いあう事ができる。

だから僕は好きなんだ。こういう幸せが溢れるお祭りが。」


子供のように、本当に嬉しそうに笑んでいるのがわかる。


…それでも、


…理解、できない……。







   しあわせ、とは ?



1月29日(金)01:19 | トラックバック(0) | コメント(0) | 単発 | 管理

残絲の果てに

 ――…、………

今日も、それは聞こえていた。
それも、以前のように聞き違いと思える程度ではない、

 ――………ィン、……ピィン

微かだが、曲のようにも聞こえる。
本来ならば耳触りでしかないはずなのに、
相変わらず心地良いとしか思えないのだから性質が悪い。

今日もまた、見えない「それ」に問う。

「お前は、誰だ。そこにいるのだろう。」

曲は止まないまま、くすり、と少しだけ笑った声。
日に日に「それ」の存在感は増しており、
今となってはもはや姿が見えないだけで、
そこにいるとはっきりとわかる程になっていた。

「姿を現せ。幽霊ごっこは止めにしてもらいたい。」

音の聞こえる方向へ向き直る。
いつもは部屋全体に音が響いており、
音の出所は確定できなかったが今日は違う。

窓際の、床。 「それ」はおそらく座っている。
姿はまだ見えないが、「それ」がいると思しき場所へ歩み寄る。

「そこに、いるのだろう。お前の事だ。」

傍まで来てそう言うと、音はぴたりと止んだ。
暫くの静寂の後、


声が、した。


『ずっと、あなたを見ていた。あなたが生まれた時から。』
「!?」

男とも、女とも取れない高めの声。
しかし姿はまだ見えない。

『生まれ変わったら、あなたとは友達になりたいって。
 …ずっと、そう思ってたんだよ。』


「…生まれ、変わり……?」

『あなたは、覚えていなくていいよ。もう…2000年以上も前だもの。』

声は、少しだけ寂しさを帯びていたように感じた。

『でも、嬉しかった。あなたは、『音』を覚えていてくれた。』
「…音……?」
『僕の音を、五月蠅い、とは言わなかったでしょ?
 あなたは、僕の『音』を愛してくれたから――』


懐かしむような声。
しかし、彼の音が心地よかったのは確かだが、愛した覚えは無い。
一体彼は、誰の事を…―

『天黒龍。』

それまでの優しげな声が少しだけ、力を持った声へと変化する。

『僕は英霊の高漸麗だ。あなたと契約したい。』

「……英、霊……」

は、として部屋の隅にあった英霊珠に気付く。
まさか英霊を従えることなど無かろうと、隅に放っておいたのだ。
…まさか、英霊の方から現れるとは。

…しかし。

「…お前は、私を他の誰かと勘違いしているのではないか?」

『?』

「私は、お前に会ったことが無い。私はお前を知らない。」

『…そうかもね。     でも。』

「それ」は近付くと、英霊珠を私の手ごと握り締めた。

『『音』は、消えないから。
 今のあなたが知らなくても、…きっと、どこかに響いてる。』


「……??」

彼の話している事がよくわからない。
何より、姿も目的もわからない相手との契約など、できるはずも――

『……わかった。あなたは僕の知ってる彼じゃない。』

こちらが戸惑っていると、何かを思いついたのか彼の声の調子が変わる。

『…契約、しろーーー!!!』
 

「!?!?」

腕を掴まれ無理やり英霊珠を高々と掲げられると、
英霊珠がまばゆい光を放ち始めた。
あまりの眩しさに手を翳すと、
一瞬の間に辺りに様々な景色が浮かんでは消える。


 吹きすさぶ寒い北風 物悲しく流れる冷たい川
 賑やかな古代の街
 黒い王宮
 柱を駆け巡る皇帝と誰か
 泣き叫ぶ誰か
 目隠しをされ何かの刑に処された誰か
 皇帝と楽師
 皇帝に向かって何かを振り下ろす楽師
 最後に処刑―――



「……い、ま……の、は………」

「はい、契約完了♪ よろしくね、黒龍くん!」
「………。」

いつしか手に握っていたはずの英霊珠は消え。
目の前にいたのは…

自分よりわずかに背が高く
見たことも無い弦楽器を持ち
男とも女ともつかない中性的な顔立ちの
………英霊、だった。


こうして、新たなパートナーが増えた。
高漸麗。種族は英霊。クラスは現在は騎士。

…正直、これを従えられる気がしない。



10月5日(月)21:06 | トラックバック(0) | コメント(0) | 単発 | 管理

残響の木霊

心霊現象の類は、未だに信じていない。
しかしパラミタに来てからは、依頼で実際に目にする機会も多くなり
その認識に多少の変化は起こっている。
…不本意ではあるが、この目に見える分については、
『それ』らの存在を認める事にした。

しかし。


 ――………


幻聴だろうか。
最近、何とも表現し難い音を聞くことが多い。
葛葉に聞いても何も聞こえないという。

 ――…………

まるで細い弦を弾いたような音だ。
出所のわからないその音は、残響だけがいつまでも響いている。
耳触りであるはずの、その音を。

……なぜか、心地良い、と。



どこにいるかわからない誰かに、問う。

「…誰だ。」

誰もいないのだから、答える訳がない。
ただ、子供のようなくすくす、という笑い声が…

「……。」

聞こえた気が、した。

(この、感覚……どこかで……)

それが、葛葉との出会いにおいて感じたものと
同一であると私が気付くのは、

……もう少し先の話。




  だって、あなたにはまだ僕が見えないのだもの。



10月1日(木)19:52 | トラックバック(0) | コメント(0) | 単発 | 管理


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