流離の標
 
PBW「無限のファンタジア」「蒼空のフロンティア」「エンドブレイカー!」のPC&背後ブログ
 



残絲の果てに

 ――…、………

今日も、それは聞こえていた。
それも、以前のように聞き違いと思える程度ではない、

 ――………ィン、……ピィン

微かだが、曲のようにも聞こえる。
本来ならば耳触りでしかないはずなのに、
相変わらず心地良いとしか思えないのだから性質が悪い。

今日もまた、見えない「それ」に問う。

「お前は、誰だ。そこにいるのだろう。」

曲は止まないまま、くすり、と少しだけ笑った声。
日に日に「それ」の存在感は増しており、
今となってはもはや姿が見えないだけで、
そこにいるとはっきりとわかる程になっていた。

「姿を現せ。幽霊ごっこは止めにしてもらいたい。」

音の聞こえる方向へ向き直る。
いつもは部屋全体に音が響いており、
音の出所は確定できなかったが今日は違う。

窓際の、床。 「それ」はおそらく座っている。
姿はまだ見えないが、「それ」がいると思しき場所へ歩み寄る。

「そこに、いるのだろう。お前の事だ。」

傍まで来てそう言うと、音はぴたりと止んだ。
暫くの静寂の後、


声が、した。


『ずっと、あなたを見ていた。あなたが生まれた時から。』
「!?」

男とも、女とも取れない高めの声。
しかし姿はまだ見えない。

『生まれ変わったら、あなたとは友達になりたいって。
 …ずっと、そう思ってたんだよ。』


「…生まれ、変わり……?」

『あなたは、覚えていなくていいよ。もう…2000年以上も前だもの。』

声は、少しだけ寂しさを帯びていたように感じた。

『でも、嬉しかった。あなたは、『音』を覚えていてくれた。』
「…音……?」
『僕の音を、五月蠅い、とは言わなかったでしょ?
 あなたは、僕の『音』を愛してくれたから――』


懐かしむような声。
しかし、彼の音が心地よかったのは確かだが、愛した覚えは無い。
一体彼は、誰の事を…―

『天黒龍。』

それまでの優しげな声が少しだけ、力を持った声へと変化する。

『僕は英霊の高漸麗だ。あなたと契約したい。』

「……英、霊……」

は、として部屋の隅にあった英霊珠に気付く。
まさか英霊を従えることなど無かろうと、隅に放っておいたのだ。
…まさか、英霊の方から現れるとは。

…しかし。

「…お前は、私を他の誰かと勘違いしているのではないか?」

『?』

「私は、お前に会ったことが無い。私はお前を知らない。」

『…そうかもね。     でも。』

「それ」は近付くと、英霊珠を私の手ごと握り締めた。

『『音』は、消えないから。
 今のあなたが知らなくても、…きっと、どこかに響いてる。』


「……??」

彼の話している事がよくわからない。
何より、姿も目的もわからない相手との契約など、できるはずも――

『……わかった。あなたは僕の知ってる彼じゃない。』

こちらが戸惑っていると、何かを思いついたのか彼の声の調子が変わる。

『…契約、しろーーー!!!』
 

「!?!?」

腕を掴まれ無理やり英霊珠を高々と掲げられると、
英霊珠がまばゆい光を放ち始めた。
あまりの眩しさに手を翳すと、
一瞬の間に辺りに様々な景色が浮かんでは消える。


 吹きすさぶ寒い北風 物悲しく流れる冷たい川
 賑やかな古代の街
 黒い王宮
 柱を駆け巡る皇帝と誰か
 泣き叫ぶ誰か
 目隠しをされ何かの刑に処された誰か
 皇帝と楽師
 皇帝に向かって何かを振り下ろす楽師
 最後に処刑―――



「……い、ま……の、は………」

「はい、契約完了♪ よろしくね、黒龍くん!」
「………。」

いつしか手に握っていたはずの英霊珠は消え。
目の前にいたのは…

自分よりわずかに背が高く
見たことも無い弦楽器を持ち
男とも女ともつかない中性的な顔立ちの
………英霊、だった。


こうして、新たなパートナーが増えた。
高漸麗。種族は英霊。クラスは現在は騎士。

…正直、これを従えられる気がしない。



10月5日(月)21:06 | トラックバック(0) | コメント(0) | 単発 | 管理

コメントを書く
題 名
内 容
投稿者
URL
メール
添付画像
オプション
スマイル文字の自動変換
プレビュー

確認コード    
画像と同じ内容を半角英数字で入力してください。
読みにくい場合はページをリロードしてください。
         
コメントはありません。


(1/1ページ)