【蒼ふろ】「From | to _」 |
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| 「L」の文字には2つの意味がある。 1つは、俺の名前。もう1つは…―
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「兄さんお腹すいた!」 「ごめん兄さんすぐ行かなきゃならないから何か適当に食べといて!」 「兄さんのば―」 「じゃあね!」
明らかに機嫌の悪い少女の声を無視して、彼は足早に去った。 妹とまともに会話をしなくなってもうどれくらいだろう。 少なくともこの1年は、同居していながら碌に顔も見ていない。 実際、彼は忙しかったのだ。寝る暇も食べる暇も惜しんで働き詰めだった。 自分の仕事と体を管理するだけで精一杯で。
―だから、気付かなかった。
元から妹がわがままだったこともあり、機嫌の悪さもさほど気にならなかった。 いつしか彼女が発する文句が少なくなって、語気に元気が無くなっても、 状況に慣れたのだろうと気に留めなかった。
―どうして、気付けなかったのか。
やっと頂点に立って家に戻った時、愛しい妹はそこにはいなかった。 あったのは、自分の帰りを待つように薄ら目を開いたまま横たわっている、 かつて彼女だったモノ。 虚ろなその目からは、涙の痕が見て取れた。
「ごめん…兄さん、遅かったね…。寂しかったね、……エリス。」
冷たくなった妹の体を、壊れてしまいそうなほど強く抱きしめた。
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「L」の文字の1つ目の意味は、俺(Elzard)の名前。 2つ目の意味は…かわいい妹(Elise)の名前。 もう寂しい思いをさせないように、ずっと一緒にいてあげるための文字。 エリスのわがままにはもう応えてあげられないけれど、 俺が関わる誰もが寂しい思いをしないでいいように。 君と同じ思いはさせないから。
ただし、これはエリスと兄さんだけの秘密だけどね。
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8月25日(木)22:07 | トラックバック(0) | コメント(0) | 単発 | 管理
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