【蒼ふろ】プラシナガイド「還夢唄」 |
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| ■どうしても取り戻したいものがある。 そのためにはたとえ―
「還夢唄(かえりゆめうた)?」
マホロバの花街で男娼として務めている天黒龍の元にその話をもたらしたのは 同じ店で客と接する機会の多い高漸麗と黄泉耶大姫であった。
「お客さん達が話してたの気になって、ちょっと聞いてみたんだ。 この近くの村に伝わる伝承なんだって。」 「どのような?」
その先の説明は大姫が続けた。
「朔(ついたち・新月の事)の夜、今までに失うたものへの想いをこめて 特別な香を焚き眠ることで、翌朝起きると失うたものが一つ手元に戻ってくるそうじゃ。 …ただし。」 「…代償でもあるのか。」 「……引き換えに別のものを失うそうじゃ。」 「……別のもの……。」
今までに失ってしまった物。取り戻したい物。数えてみればきりが無い。 しかし他の何かを代償にしてまで得たいかと言われれば…
――いや。今の私には、ある。
「…葛葉はどこにいる。」 「葛葉さんは近くの旅籠に泊まってるって。」 「……高漸麗、黄泉。」
やや間を置いて、黒龍は2人のパートナーへと視線を向けた。
「うん、わかった。話はつけとくから。」 「そなたは毎度毎度……誰ぞに身請けでもしてもろうた方が楽であろうに。」 「今はまだここを離れられん。」
それだけ言い残すと、黒龍は身支度を整えひっそりと遊郭を後にするのだった。
「……姫さま。」 「何じゃ。」
「…哀しい、お話だね。」
*
「マホロバ…?」 「昔…あぁ50年くらい前だけど、その時の常連のコから最近聞いたんだけどさ。 その子のマホロバの故郷の村が最近ならず者に荒らされて困ってるんだって。 俺は行ってあげたいんだけど…雲雀はどうする?」
空京の街中。 転校にあたり必要な物資を買い揃えた後、喫茶店で一息ついていたのは 土御門雲雀と、そのパートナーであるエルザルド・マーマン。 彼の台詞から聞きたい事は山とあったが、それは今は置いておいて。
「あたし別に関係ねーし……」 「マホロバて、とおい?」
口をはさんで来たのは自分とよく似た顔をした金髪の少女、はぐれ魔導書『不滅の雷』。
「そりゃ遠いだろーよ、だってここだぜ?」
パラミタの地図を広げて見せれば、彼女はみるみる目を輝かせていく。
「ヒバリ!いこ!マホロバいこ!!おもろそーやんっ」 「観光じゃねーんだぞてめーはよー」 「事件を解決してあげた後なら観光もいいんじゃないかな? それにこの村には面白い伝承もあるみたいだしね。」 「面白い?」
「『還夢唄』のことならあんまり勧めねえぞ俺は。」
最後に会話に入って来たのは、炎熱の精霊サラマンディア・ヴォルテール。
「何だ、知ってたのかい。」 「伊達に永く生きてねえし、そりゃ多少はな。」 「『還夢唄』って何のことだよ…?」
エルザルドとサラマンディアだけで進んでいく話についていけなくなった雲雀が 自信無さげに会話に口を挟む。
「……ま、とりあえずはならず者の退治に行ってあげるって事で。 その後どうするかは任せるよ。」
あえて雲雀に説明する事はせず、さっさと歩きだしてしまったエルザルドを 慌てて雲雀が追う。
「ちょ!説明しろってば、エル!!」
*
それぞれの思惑が、朔(ついたち)の夜に交錯する――。
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5月21日(土)21:41 | トラックバック(0) | コメント(0) | +背後雑談+ | 管理
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