流離の標
 
PBW「無限のファンタジア」「蒼空のフロンティア」「エンドブレイカー!」のPC&背後ブログ
 



【蒼ふろ】「永の生」








「しっかし見事なまでに真っ白だなお前。」
『オレ、もっといろんなこと知っとったはずやのに……』

はあ、と肩を落として溜息をつくのは小さな少女。
正確にはその正体は魔導書『不滅の雷』である。
しかし魔導書という種族にそぐわず彼女の本体は学習帳程度の薄さしか無く、
その中身も大半が白紙という状態である。

『あれからな、オレずっと考えてたんよ。
 なんでこないに思い出せんのやろ、薄っぺらいんやろて……
 このままやったら、オレただの役立たずやもん……』
「んな事ぁ無えと思うけどな、俺は。」

ぱらぱらと彼女の本体である魔導書のページをめくるのは
精霊であるサラマンディア。

「チビに見つけられる前の事は、ほんっとに何も覚えてねえのか?」
『…わからん……ずっと、寝とったような気がする……』
(…封印、てやつか?)

魔導書をめくり、彼女への問いを繰り返しながら
サラマンディアはひとつの可能性に辿りついた。
禁書として封印を施されていたのではないかと。
そして万が一誰かの手に渡った時は、
封印によって本の内容が消え去る仕組みであった、と。
ちなみにチビとは彼らの契約相手である土御門雲雀のことだ。

「まあ、お前ら禁書ってのは何かしらヤバい魔術を記した魔術書であることは確かだ。
 お前もその内記憶を思い出せるようになるって。」

魔導書を閉じ、人型である『不滅の雷』―カグラと呼ばれている―へ返そうとしたが
彼女はなぜか受け取ろうとしない。

「どうした?」
『……よう、思い出せへんのやけど、
 …こんなこと、結構繰り返してきた気がするんよ。
 誰かに見つけられて、ちょっとずつ思い出して、
 しばらく眠った後でまた誰かに見つけられて、そしたら全部忘れてもうて……』
「お前、自分がいつできたか思い出せるか。」
『………めっちゃ昔。それくらいしか思い出せへん……』
「……。」

(表紙の文字からして1000年以上は前に書かれたモンだとは思うんだけどな…)

長い時を生きてきたサラマンディアにはそれがわかった。
それほど昔に生み出されていながら、
何度も目覚めと眠りを繰り返している。そして記憶の喪失……。

「俺の推測でしかねえけど。」
『…?』
「さっきも言ったが禁書ってのはヤバい魔術を記した書だ。
 大体の禁書は間違ってその魔術が発動しないように封印が施されてる。
 お前の場合は、多分持ち主が死ぬ度に眠っちまうんだよ。
 んで、眠ってる間は全部の記憶を覚えてるんだけど
 次の持ち主の手に渡った途端…目覚めと当時に記憶が無くなる。
 今お前が薄っぺらでほとんど白紙なのは、
 まだチビと契約して間も無えからじゃねえか?」

隣りのカグラの様子を見てみれば、なぜか不安に青ざめた顔をしていた。

『……オレの持ち主、何人も死んでるん…?オレのせい…?』
「そこまではわからねえよ。
 つーか、1000年も生きてりゃ何事も無くても人間の方が先にくたばるってもんだぜ。
 お前はその本体が無事な限りはいつまでも生きられるけどな。」

『…ヒバリ、も…先に、死ぬ?』
「…だろうな。あいつはただの人間だ。」
『……オレ、また全部忘れる……?』
「……俺の予想が合ってれば、そういう事になるな。」

彼らの契約相手である雲雀は、契約者であるとは言え
地球人である以上その寿命までしか生きられない。
長くてもせいぜい100年前後。
それがタイムリミットだ。

『忘れたく、ない……っ いやや、また忘れるんいやや…っ!
 またわからんくなるん、いやや!
 やっとちょっとずつ思い出せたのに、また忘れるんいやや…!!』

ひたすらいやいやを繰り返す内に泣き始めてしまった彼女。
同じく死の概念がない種族であるサラマンディアにとって
彼女の悲しみはわからないではなかった。
長い時を生き続ける自分達にとって、一個人の一生の何と短い事か。
彼女が再び全ての記憶を失う日も、そう遠くは無いのだろう。
あくまで、自分達の時間概念では、だが。

サラマンディアは彼女の肩を抱き寄せると言った。

「俺が覚えててやるよ。だから泣くんじゃねえ。」

『精霊、さん…』
「チビも、あの守護天使の野郎もいずれは寿命が来る。
 でも俺は何が起こっても死なねえ。
 精霊ってのはそういう種族だからな。」
『……』
「だから、俺がお前の事を全部覚えててやるよ。
 いつかお前がチビの次の契約者に渡って、全部の記憶を忘れちまっても、
 …俺が全部教えてやるから。」
『でも、そしたら精霊さんはもう森には戻れへんよ…』
「ハッ、どうせ厄介者扱いされて俺も封印されてたんだ。今更森には戻れねえよ。」

ずっと覚えててやる、と、彼はカグラの頭をくしゃりと撫でた。

『精霊、さん……っ』
「だから泣くなって。
 それとその呼び方やめろ、俺にはサラマンディアって名前がある。」
『サラマン、ディア……

 ありが、とう………』

泣きながら、小さな彼女は笑った。



4月10日(土)01:17 | トラックバック(0) | コメント(0) | 単発 | 管理

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