一次的回来4(完) |
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| 「………。」 「………。」
社長室で、2人はしばらく沈黙したままだった。
1人は黒龍、もう1人は社長でもある彼の母。 互いに心霊現象などの類は信じない性格であったが、 目の前で紫煙葛葉との契約の瞬間を見せつけられては信じざるを得なかった。
「……彼は、何なの。」 「…パラミタの住人だと、言っていた。」 「パラミタ…ああ、日本上陸に最近現れた浮遊大陸…だったかしら。」
多くの資源が眠る大陸として、中国からも出資している企業は少なくない。
「……確か、聞いた話では住人と契約した契約者だけが、 パラミタへ入る事を許されるのだったかしら。」 「…そんな話だ。」 「……なぜ、お前なの……」
迷惑でしかない、と彼女は額を押さえて溜息をつき、 しばらく俯いていた。
「…行ってきなさい。ついでに財閥のパラミタでの拠点でも作ってきたら?」 「……母、さん…?」 「ただし条件があるわ。必ず財閥を継ぎに帰ってくる事。いいわね。」 「……。」
そういう彼女の態度は、決して心から息子の出発を歓迎するものではなく、 ただただ呆れた、というものだった。
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「……どう、……だ、った。」
社長室の外では、肉体を得た紫煙葛葉が待っていた。
「…行く。日本へ。」 「ん。」 「日本から、パラミタへ行く。」 「…そう、か。」 「………」
肉体を得ていなかった時と違い、隣りを歩く確かな存在感がある。 自分より少し高い背。響く声。
…『先生』の背も、これくらいだっただろうか。 昔はもっと高く感じたのに。
隣りを歩く彼を見上げていると、その彼が突然立ち止まった。
「?」
何事かと、反応に困っている内に差し出されたのは彼の手。
「……宜しく。」
「…………ん。」
我ながらぎこちないと思いつつ、差し出されたその手を握り返した。
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9月27日(日)21:55 | トラックバック(0) | コメント(0) | 一次的回来(完) | 管理
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