流離の標
 
PBW「無限のファンタジア」「蒼空のフロンティア」「エンドブレイカー!」のPC&背後ブログ
 



一次的回来3

未だに、信じられない。
幽霊など信じていなかったが、『それ』が現れた時は
『先生』の霊としか思えなかったのに。

「先生…では、ない………?」
『俺、は……葛葉。紫煙、葛葉。
 ………ここから、では……見えな、……い、が……
 パラミタ、の…者だ……』

中国の空は霞んでおり、
日本上空に浮遊しているパラミタ大陸を視認することは
残念ながらできない。

「日本の上空に現れたという、……パラミタ大陸、か…?」

問えば、紫煙葛葉と名乗った『それ』はこくりと頷いた。

 ……これほど、似ているのに……
 本当に、『先生』ではないのか……?

まだ信じられず、黒表紙の本や紫煙葛葉が座っていた場所についても
問い質してみたが、
「覚えがない」といった答えしか返って来なかった。

『何度、でも……言う。
俺……は、……先、……生、じゃ……ない。』
「………しかし……」
『だが、……その、………『先生』、は………
お前、に、………とって、……大事な、人間、………なの、
……だ、…な。』
「……それ、は………」

 「大事な人間」……、……とは?
 
特に難しい言葉ではない。
文字通り、自分にとって大事な人間、という意味だろう。
…しかし、わからない。

 大事な人間、とは……何、だ……?

いつの間にか考え込んでいた私に、
紫煙葛葉が微かに笑んだ声がした。……気がした。

『自覚、…が、………無く、とも。
……俺が、見えて……いる、……の、…だか、ら……
そういう、事……、なん、…………だ、…よ。』
「……わからない。…お前は、何――」

「黒龍。……何と話しているの?」

「!!」

更に紫煙葛葉に問い詰めようとして、真後ろから声がした。
ここに来るはずの無い…母の声だ。
振り向けば、母の後ろで「側近」も訝しげな表情でこちらを見ている。

「何方かとお話をしておられるのかと思ったのですが……
覗いてみましても、何方もいらっしゃらず…
黒龍様がお1人で、何かをお話ししておられたので……」
「答えなさい。何と話しているの。それとも、頭がどうにかなってしまったの?」

母の態度は、こちらを心配していると言うよりは、侮蔑のそれだった。

 どういう、事だ……?

『彼女、ら……には、…俺は、……見え、ない……』

答えに詰まる私の隣で、紫煙葛葉がぼそりと呟いた。

 私にしか見えない、と…?

『俺、のす……がた、は……お前に、しか……見え、ない………今は、な。』
「答えろ、…どうすれば、お前の姿が見える!?」

母の疑いを晴らすには、私が幻覚を見ていたのではないと証明するしか、
…彼の姿を、皆に見せるしかない。

『契約。』
「契約?」
『パートナー、…契約。俺に、……応えろ。
それで、俺…は、……体を、…得ら、れる。』

「黒龍…?」

眼前の母が眉間に皺を寄せて不機嫌を顕わにするが、気にしている場合ではない。

「契約するには、どうすればいい…!」
『………名前。』
「名前?」
『お前、の……名前。…まだ、知らない。』
「天黒龍だ!早く契約し――!?」

名を教えるなり、紫煙葛葉に腕を強く引かれ彼の胸に押し当てられる。
同時に、彼の腕が私の胸に伸び、同じく押し当てられる。
まるで互いの鼓動を確かめるように――

『鼓動を、合わせろ。……黒龍。』

「……!」


先生と、…全く同じ、声で。  


 黒龍、  と。


その言葉の響きが、懐かしくて

ずっと、欲しくて





まるで、乾いた大地に水が染み込むように
言葉が残響となって身体に広がっていくのと
触れたところから彼が実体を得ていくのは、ほぼ同時だった。



9月27日(日)21:50 | トラックバック(0) | コメント(0) | 一次的回来(完) | 管理

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