流離の標
 
PBW「無限のファンタジア」「蒼空のフロンティア」「エンドブレイカー!」のPC&背後ブログ
 



天上の鳥は高らかに歌い 1

最後の一音の響きが消えるのを待って、
彼はようやく竪琴を奏でていた手を下ろした。

「・・・ありがとう。今日も、良かったよ。カーラ。」

労いの言葉をかけながら彼が撫でているのは、
今しがたカーラと呼びかけた竪琴である。
吟遊詩人である彼、ジェイドの欠かせない相棒となっている魔楽器だ。
「カーラ」は愛称で、正しくはその名を「カラヴィンカ」という。
美しい声で歌う天上の鳥の名の由来通りに、
カーラは奏でられる度に聴衆と、主の心を満たしていた。

・・・ただ、主にだけは。
その心を満たすと同時に、ほんの僅かな戒めをも同時に与えるのだった。

***********************

「それ、あんたにやるよ。」

連れてこられたのは楽師一座の楽屋。
目の前では髪に大輪の椿の華を咲かせた、
色黒のドリアッドの女性が机の上に独特な竪琴を置いて
ぶっきらぼうにそう言った。

「ロン、ファ?」
「冒険者・・・吟遊詩人になったんだろ?あの武人から聞いた。」

武人―クアンのことか。
そう頻繁ではなかったが、
彼がこの一座の人間と話す機会が結構あったのは確かだ。
そしてこの女性―ロンファは、「彼女」の姉貴分にあたる女性。
・・・・・その「彼女」は、先日、自分が―――

「ジェ・イ・ド。質問には答えな、なったのかなってないのか。」

自分を責めかけた所で、目の前のロンファの声で現実に戻る。
姉御肌である彼女のきっぱりとした強い語調は、
今の自分にとっては唯々、つらいものでしかなかった。

「・・・なったよ。」
「冒険者の吟遊詩人がどういう職か知らないわけじゃないだろ?
 ・・・・だから、これは餞別。」

こちらの声に力が無いのは敢えて無視したのか、彼女は淡々と告げた。

「・・・・・・・」

正直、その竪琴を手に取るのはためらわれた。
「彼女」が生前、楽器などろくに触れた事も無かった自分に
嬉々としてその奏法を教えてくれたのが、この竪琴だ。
・・・・・「彼女」との思い出が、詰まっているから。
竪琴に収まり切らない想いが、溢れ出ているから。
いくら餞別でも、触れることすらできなかった。

愛しい「彼女」を、想い出さずにはいられない。
自分のせいで喪ってしまった「彼女」を、悔やまずにはいられない。

竪琴に手を出せずにいると、彼女は続いて言葉を紡いだ。



11月19日(月)01:18 | トラックバック(0) | コメント(0) | 天上の鳥は高らかに歌い(完) | 管理

コメントを書く
題 名
内 容
投稿者
URL
メール
添付画像
オプション
スマイル文字の自動変換
プレビュー

確認コード    
画像と同じ内容を半角英数字で入力してください。
読みにくい場合はページをリロードしてください。
         
コメントはありません。


(1/1ページ)