天上の鳥は高らかに歌い 1 |
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| 最後の一音の響きが消えるのを待って、 彼はようやく竪琴を奏でていた手を下ろした。
「・・・ありがとう。今日も、良かったよ。カーラ。」
労いの言葉をかけながら彼が撫でているのは、 今しがたカーラと呼びかけた竪琴である。 吟遊詩人である彼、ジェイドの欠かせない相棒となっている魔楽器だ。 「カーラ」は愛称で、正しくはその名を「カラヴィンカ」という。 美しい声で歌う天上の鳥の名の由来通りに、 カーラは奏でられる度に聴衆と、主の心を満たしていた。
・・・ただ、主にだけは。 その心を満たすと同時に、ほんの僅かな戒めをも同時に与えるのだった。
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「それ、あんたにやるよ。」
連れてこられたのは楽師一座の楽屋。 目の前では髪に大輪の椿の華を咲かせた、 色黒のドリアッドの女性が机の上に独特な竪琴を置いて ぶっきらぼうにそう言った。
「ロン、ファ?」 「冒険者・・・吟遊詩人になったんだろ?あの武人から聞いた。」
武人―クアンのことか。 そう頻繁ではなかったが、 彼がこの一座の人間と話す機会が結構あったのは確かだ。 そしてこの女性―ロンファは、「彼女」の姉貴分にあたる女性。 ・・・・・その「彼女」は、先日、自分が―――
「ジェ・イ・ド。質問には答えな、なったのかなってないのか。」
自分を責めかけた所で、目の前のロンファの声で現実に戻る。 姉御肌である彼女のきっぱりとした強い語調は、 今の自分にとっては唯々、つらいものでしかなかった。
「・・・なったよ。」 「冒険者の吟遊詩人がどういう職か知らないわけじゃないだろ? ・・・・だから、これは餞別。」
こちらの声に力が無いのは敢えて無視したのか、彼女は淡々と告げた。
「・・・・・・・」
正直、その竪琴を手に取るのはためらわれた。 「彼女」が生前、楽器などろくに触れた事も無かった自分に 嬉々としてその奏法を教えてくれたのが、この竪琴だ。 ・・・・・「彼女」との思い出が、詰まっているから。 竪琴に収まり切らない想いが、溢れ出ているから。 いくら餞別でも、触れることすらできなかった。
愛しい「彼女」を、想い出さずにはいられない。 自分のせいで喪ってしまった「彼女」を、悔やまずにはいられない。
竪琴に手を出せずにいると、彼女は続いて言葉を紡いだ。
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11月19日(月)01:18 | トラックバック(0) | コメント(0) | 天上の鳥は高らかに歌い(完) | 管理
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