流離の標
 
PBW「無限のファンタジア」「蒼空のフロンティア」「エンドブレイカー!」のPC&背後ブログ
 



遭遇前夜 2

「しっかしジェイドは何で吟遊詩人なのに剣なんて持ってんだよ?」

客も少なくなってきたころ、
いつしか例のエルフの卓にジェイドとマスターが加わり、
軽い飲み会になっていた。
そんな中、エルフの男がジェイドの杯に酒を注ぎながら
そんな事を聞いたのだった。
確かに、ジェイドはいつも相棒の竪琴「カラヴィンカ」の他に
派手な装いに隠れかけてはいるが細身の剣を佩いている。

「俺も実は前から気になってたんだよな。持ってても使わないだろ?」
マスターも便乗すれば、ジェイドはやんわりと笑みを返す。
「馬ー鹿、吟遊詩人だからこそいるんだよ。
 こーんなひ弱な男が一人で歩いてたら、
 いつ襲われるかわからないだろ?」
杯の酒を飲み干してエルフに軽くウィンクを送ると、
ジェイドの双方から男達がぶっと噴き出した。
「どこがひ弱だ、このウワバミ!!」
「1日で酒樽3つも空ける奴のどこがだよ!このザル!!」
「おや手厳しいねえ。」

二人の全力のツッコミをひらひらとかわす。
もちろん、彼が剣を佩く理由は他にあるのだが
再会を喜ぶこの場においてそれを話すのは良くない。
場の空気を壊してしまうし、興ざめだ。
それよりも、こうして面白おかしく話をでっちあげて、
皆で大笑いできるほうが良い。
―――吟遊詩人ジェイド・エストナとは、そういう男であった。

「ああそうだジェイドさん、俺が言うのもなんだが、
 隣街の酒場の噂知ってるかい?」
「何だいそれは。」
マスターの話に興味を持ったジェイドが、彼の方へ体を向けた。
「なかなかいい店でね。店自体ももちろん良いんだが、
 特に評判なのはそこの『歌姫』だって話だ。」
「・・・・歌、姫。」
一瞬ジェイドの表情が強張ったのには気づかずに、
マスターは話を続けた。
「俺はまだ直接会った事は無いんだが、セイレーンの別嬪さんだって話だ!
 加えてこの歌がまたいいんだとか・・・!
 聞いた奴の話じゃ、心に染みるとか、一日聞いても飽きないとか、
 もうそりゃあ結構な噂で・・・・ってジェイドさん?」
「ジェイド?どうしたおっかねえ顔して。」

その 噂。

「・・・・・いや、何でも・・・・」

聞けば 聞くほど。

出会った頃の 彼女の話に 瓜二つで。



どうしてまだ。
私は有り得ない事を期待してしまうのだろう。



10月10日(水)11:58 | トラックバック(0) | コメント(0) | 遭遇前夜(完) | 管理

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