遭遇前夜 1 |
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| 「へいらっしゃい!・・・おお、あんたか!」 「おや覚えてくれてたのかい。嬉しいねえ!」 「一度見たら忘れねえよあんたの格好はよ!」 「ふっ そうかもね。」 酒場のマスターと客-ジェイドは久々の再会を喜んで 互いに大声で笑った。
酒場はそれなりに繁盛しているようだった。 客の入りもまあまあ。肴の味も悪くない。 「はいよ!あんたは確かこれで良かったよな?」 「よく覚えてるねえ・・・!」 「ま、それだけが俺の取り柄だったからな!」 ニカッと笑うと、マスターはまた客の注文を取りに他所の卓へ回った。
「・・・前に来た時はまだほんの若造だったあいつがねえ・・・・」
運ばれてきた肴をつまみながらその様子を眺めるジェイド。 以前、初めて彼がこの店を訪れた時には、 今マスターとして店を切り盛りしているあの男はまだ見習いで、 怖そうな顔をした先代マスターの後ろについて走り回っていたのを ジェイドは覚えていた。 しかし、セイレーンが精神年齢でしか肉体が年を取らないのに対して、 一部の種族を除いては年月と共に年老いていく種族が多い。 自分はさほど年を取ってはいないが、 そういった種族の知り合いの変化を見ると、 改めて種族の違いを感じさせられた。
他の卓を見回してみれば、やはり記憶からは年を食っている 当時の常連客の顔が見えた。 「おーい!そこの洒落た帽子かぶったエルフの兄さん! ・・・・あんただよあんた、そこのあんた! 私の顔に見覚えは、ないかい?」 突然呼びかけられた中年のエルフはしばらく驚いた顔をしていたが、 やがて思い出したのか「あああ!!」と大声を上げた。 「ジェイドか!?戻ってきたのか!?」 「んー、ここの肴が恋しくなってね。 あと、あんたの金で飲む酒は格別だから♪」 「お・・・・お前またおれにたかるのか!?」 「私たちの仲だろー?」 「待ってくれこれ以上酒場で金使うとうちのコレが・・・!」 右小指を上げながらうろたえるエルフに対して、ジェイドはその小指を まじまじと見ていた。 「あんた、所帯持ったのかい!いやーめでたいねえ♪」 「怖い女だけどな・・・」 妻の顔を思い出したのかエルフが怯えたような振りをする。 「・・・・ま、そう言ってやるなよ。 そういう事ならあんたには頼まないから。」 「そうしてくれると助かるよ・・・・・」 情けなく背を丸めるエルフに、ジェイドは心からのエールをこめて ぽんぽんと背中を叩いた。
「あージェイドさんは俺の奢りにしとくから!気にすんなよ!」 カウンターの向こうから大声で言ったのは他ならぬマスター自身であった。 「おや、いいのかい?またあの強面の親父にどやされるよ?」 ニヤニヤと含み笑いを浮かべながら言うジェイドだったが、 反応は意外なものだった。 「親父なら5年前に死んじまったよ!だから俺がマスターやってんだし。」 手元を休ませることなく、相変わらずの大声で言ってのけるマスター。 「あ・・・すまなかったね。気悪くさせちまったなら、許しとくれ。」 「いいっていいって!ほら飲んだ飲んだ!」 どんな言葉にも気さくに、笑顔で返してくれる。 それが、このマスターの好きなところだった。
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10月10日(水)11:27 | トラックバック(0) | コメント(0) | 遭遇前夜(完) | 管理
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