流離の標
 
PBW「無限のファンタジア」「蒼空のフロンティア」「エンドブレイカー!」のPC&背後ブログ
 



歌声は蒼穹に 嘆きの声は海原に 序

それはもう、ずっと昔。
まだ”彼”が吟遊詩人となる前の、遠い昔――。

「全くお前と言う奴は・・・今日は本当にダメかと思ったぞ!」
「ははは、悪いけど運だけは強いぞ!」
「そういう問題では無い!!」

ある晴れた昼下がり。
酒場の一角の円卓で2人の男が昼食を口に運びつつ、
そんな会話をしていた。

「常々思うが、お前のその腰の剣は何なんだ!
 自分の身も守れなくて何が武人か!!」
先ほどから食事の手もそこそこに怒鳴ってばかりのこの男の名は、
クアン・サディといった。
年の頃は外見からして三十手前ほどであろう。
冒険者として諸国を回っているヒトの武人である。
「無いよりはある方が良いだろう?丸腰よりかは安全だし。」
そんなクアンの剣幕もどこ吹く風、といった様子で
飄々とかわし続けるいま一人の若い蒼髪の男。

名を、ジェイド・エストナ と言った。

生まれは北方セイレーン王国のセイレーンである。
そしてその職業は武人、であるはずなのだが。

「武人が武器をその様に軽々しく扱うものか・・・
 お前の剣は、ただの飾りではないか。」
「使わないで良いならそれに越した事はないんだろ?
 あんたもそう言ってたろ。」
「そ・れ・は・な、最低限自分の身は守れる者が言う台詞だ。
 お前は武人として最低限もできていない、
 俺が助けに入らなければお前は今ここにおらなんだぞ!」

その腕前の程は、武人と言うには程遠いものであった。
剣を帯びてはいるものの、その扱いはほぼ素人。
加えてこのジェイドという男、剣の修行にいそしむ様子も無い。
それどころか自分の「武人」という職業にすら疑問を持つほどである。

「その事は感謝するさ。あんたは命の恩人だよ。
 けれど私は武人になりたくて剣を持っているわけではないんだよ。」
「・・・・ではどうしたいのだ、お前は。」
「―――私は」

ざわっ

その時、酒場のステージ―と言うよりは、ただ開けた場所―に
数人の芸人が入ってきた。
男も、女もいる。楽器を持った者と、踊り子とがそれぞれ3、4人。
種族も様々だ。ドリアッドもいればチキンレッグもいる。
もちろんヒトやセイレーンもいて、
中でも目を引いたのは踊り子の――

「・・・・まさかあのリザードマンの踊り子か?」
怪訝な顔でクアンに覗きこまれて自分がその踊り子に
目が釘付けになっていたことを知った。
「い、いや違うよ何言ってるんだ!
 確かにあいつも別に意味で気にはなるけれど・・・」
「じゃああの子かい?セイレーンのあの子。」

別の常連客に会話に首を突っ込まれいきなり言われた。

「・・・・そうなのか?」
「・・・・・・・」

クアンの問いに、なぜかジェイドは返答できなかった。
何かがこみ上げて喉が詰まったように、声が出ない。
こみ上げるものはもちろんいましがた食べていた昼食では無い、
これまでに味わった覚えのない苦しい、それでいてなぜか幸せな、
そんな思いだった。

「彼女はシエファ。あの一座の一番人気の売れっ子だよ。」

その白い肌に、はにかんだ表情が眩しい深い色の瞳に、
陽光を受けて煌く碧い髪に。
言葉では表しきれない、彼女のすべてに。


――要は、一目惚れしたのだった。




10月1日(月)23:35 | トラックバック(0) | コメント(0) | 歌声は蒼穹に 嘆きの声は海原に | 管理

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